オフィスの課題は「建物」が解く時代へ
電気代の高騰、働き方の多様化、そして地震や水害への備え――企業の総務部門が抱える悩みは年々複雑になっています。ところが実は、その多くが建物そのものを"賢く”することで、一挙に解決へ近づく可能性があります。温湿度や人の動きを見える化し、AI が最適な空調や照明を自動で選ぶ――こうした仕組みを備えたビルは近年「スマートビル」と呼ばれ、都心の再開発案件から既存ビルの改修まで採用が広がっています。
スマートビルとは?──“デジタルツイン”を動かす三本柱
従来ビルの課題:サイロ化とベンダーロック
オフィスビルの設備は、空調・照明・防災・警備などがメーカーごとの専用システムで独立稼働しているケースが一般的です。これを“サイロ化”と呼びます。サイロ化が進むと、設備どうしがデータをやり取りできず、異なるシステムをつなぐには大掛かりな改修が必要になります。また、空調など特定の機器だけを新モデルに更新しようとしても同一メーカー以外を選びにくく、ベンダーロック(特定メーカーへの依存)が発生します。
三本柱が生むデジタルツイン
サイロ化を解消し、設備更新の自由度を高める方法として WHEREが提案するのが、ビル単位で 共用 IoT インフラ・統合 IoT データベース・ビル OS をセットにする “三本柱” アーキテクチャです。
1. 建物内外の状況を集める 共用 IoT インフラ
―ビル全体をカバーするセンサーと無線ネットワーク
2. 収集したデータを一元保管・分析する 統合 IoT データベース(IoT DB)
―位置情報や環境情報など全てのセンサー情報を1ヶ所に保管するデータ保管庫
3. データを基に空調・照明・警備を自動制御する ビル OS
―建物の頭脳となる統合制御システム
共用IoTインフラから統合IoTデータベースに集まったデータは、クラウド上に建物そっくりの仮想モデル――デジタルツインを作ります。ここで重要になるのが、空調・照明・警備など個別のシステムが理解できる 「共通の言語」 です。
従来はメーカーごとに異なる専用プロトコルが使われ、空調のデータと照明のデータのフォーマットが異なる、といったサイロ化が起きていました。三本柱を導入すると、
・共用 IoT インフラ がセンサー信号を標準フォーマットに変換
・統合 IoT-DB が標準化された形式でデータを一元保存
・ビル OS(建物の頭脳) が REST API を介して各設備へ指令を出す
という流れで、すべての設備が同じ API とデータ形式を使って“共通の言語”で会話できるようになります。
例えば「在席率が 50 % を下回ったら無人エリアの照度を自動で 30 % ダウンし、空調を省エネモードに切り替える」といった複合ルールもワンクリックで設定可能。こうしてリアルタイム制御・省エネ・機器更新の自由度を同時に実現するのがスマートビルの真価です。
スマートビルがもたらす3つの価値
スマートビルは「電気代を下げる便利な仕掛け」という点のみが注目されがちですが、その効用は省エネだけにとどまりません。 コスト削減に加え、快適性向上、安心安全 の価値が重なり合い、好循環をもたらします。まずはそれぞれの価値について見てみましょう。
コスト削減 ―― “見えないムダ” を秒単位でカット
ビル全体に張り巡らせたセンサーとビル OS が、在席状況や外気温をリアルタイムで解析し、空調や照明を自動調整します。これにより中規模ビルでも年間 30 %を超える維持費削減 が期待できます。従来のような「人がいない会議室で空調だけ回り続ける」といったムダが、システム側の判断で瞬時に消えるイメージです。
快適性向上 ―― “空き情報” を味方につけて待ち時間ゼロへ
スマートフォン上のアプリやサイネージを通じて、空いている会議室やトイレ、エレベータの待ち時間 を一目で確認できるようになります。利用者は最短ルートで目的地に向かえ、不必要な移動や待ち時間から解放されます。こうした体験価値は、テナント企業がオフィス選定で重視する「従業員エンゲージメント」に直結し、結果として 賃料アップや空室率低減にも寄与します。
安心安全 ―― “もしも” の備えをデジタルで
ビーコンタグや顔認証を活用した入退館データは、平常時のセキュリティだけでなく、災害発生時の安否確認にも活用できます。クラウド上のダッシュボードには「誰がどのフロアにいるか」がリアルタイム表示され、避難誘導や警備会社への連絡がワンオペレーションで完結。紙の名簿や電話連絡網に頼っていた頃に比べ、BCP(事業継続計画)の実効性が大幅に高まります。
ひとつのデータが三方向に活用できる──それがスマートビルならではのメリットです。たとえば在席センサーが集めた人流データは、①無人エリアの空調・照明を止めることでコストを削減し、②混雑を避けたルートを提示して快適性を高め、③非常時には在館者を瞬時に特定して安全を守るという三役を一度に果たします。データを共通の言語(標準 API とデータフォーマット)でやり取りする仕組みを整えることで、コスト・快適性・安全性が互いを底上げし合う“好循環”が生まれるのです。
このように、スマートビルは単なる省エネ装置ではなく、コスト・快適性・安全性 を同時に底上げする
“経営インフラ”へと進化しているのです。
導入のハードルはこう乗り越える──“スモールスタート”と“後付けメッシュ”という現実解
スマートビルの実現は、意外にも「スモールスタート」で行うことができます。まずワンフロアに導入、その効果を確かめ、手応えを得てから全館へ段階的に広げることが可能であり、大規模改修のように「全館を止める」「一気に巨大投資をする」といったリスクを負う必要はありません。効果を“見える化”しながら経営判断を下せるため、投資回収のシナリオが描きやすく、社内稟議も通しやすくなります。
このスモールスタートを後押しするのが、Bluetooth LEメッシュと呼ばれる後付けネットワークです。天井や壁に取り付けたセンサーが隣のセンサーへデータを次々と渡していくため、ビル内に新たなLANケーブルを張り巡らせる必要はほとんどありません。天井裏を走るケーブルの代わりに、Bluetooth通信で電波の橋を架けるイメージです。さらにメッシュは自己修復性を備えており、仮に途中のセンサーが故障しても、信号は自動的に迂回ルートを探して“流れ続けるため、床面積が広いビルでも死角を作りません。
無線方式にありがちな「Wi-Fiと干渉して社内ネットワークが遅くなるのでは」という不安にも、Bluetooth LEは周波数ホッピングで応えます。0.1秒間に1600回以上という高速で通信チャンネルを切り替え、Wi-Fiが混雑している帯域を感知すると瞬時に別チャンネルへ変更。このため、テナント用Wi-Fiと電波が衝突する時間がほとんどなく、オフィスの通信品質を犠牲にせず導入できます。実際、夜間にセンサーを設置し、翌朝にはデータが上がり始めたリノベーション事例も報告されています。
こうして基盤が整えば、導入プロセスはごくシンプルです。
• ステップ1:実証フロアで在席連動照明を走らせ、光熱費削減率をダッシュボードで確認。
• ステップ2:位置タグを追加し、会議室やトイレの混雑をリアルタイム表示。
• ステップ3:空調、警備、QR受付へと制御対象を広げ、全館へ展開。
費用面でみると、中規模ビルであっても 年間三割超の光熱費削減が見込めるケースが報告されています。加えて無人受付やテナント向け混雑情報サービスなど、付加価値メニューで賃料アップや新収益源を得た事例もあり、投資回収のスピードは想像よりずっと早いかもしれません。
最後に、さまざまな補助金を活用する道もあります。ネットワーク機器部分は環境省の実施する「脱炭素ビルリノベ事業」、受付の自動化は中小企業庁の実施する「中小企業省力化投資補助事業」の対象になる場合があり、ベンダー側が申請をサポートしてくれるケースも少なくありません。
“小さく始めて大きく育てる”――それがスマートビル導入の合言葉です。
EXBeacon プラットフォームの実力
WHERE では、IoTインフラ「EXBeaconプラットフォーム」を用いたスマートビル(建物IoT化)ソリューションをご提案しています。送受信機同士が自律的にネットワークを構成し、集めたデータをゲートウェイ経由でクラウドに集約。統合データベースに蓄えた情報をビル OS や受付システムと API 連携することで、会議室の自動空調制御から QR コード来訪者予約受付システム「APOTORO ®」までをワンストップで実現します。
※APOTORO®は西部電気工業株式会社の登録商標です。
次世代機では AoA測位(タグをつけたものを高精度で探せる技術)により位置測定の精度を向上させ、Long Range 機能で電波到達距離を拡張。さらに Advertising Extensions により他社センサーの信号もそのままクラウドへ橋渡しできるため、空調機器や防災センサーを含む既存設備との親和性が高い点が評価されています。
未来展望――スマートビルからスマートシティへ
ビル単位で得たデータを街区全体に広げれば、交通量や屋外気象データと連携した「街ぐるみのエネルギーマネジメント」も夢ではありません。実際、現在開発中の次世代 EXBeacon は屋外でも使える電波延伸機能を備え、都市データとの融合を見据えています。ビルが自律的に呼吸し、都市がリアルタイムで最適解を探す――そんな世界はすでに設計図の中だけの話ではなくなってきました。
スマートビルは「高層ビルの話」と思われがちですが、センサーとクラウドを小規模に導入するだけでも空調効率や混雑把握の効果は明確に現れます。まずは自社フロアの一部を“実証エリア”にして、在席連動の照明制御や 無人受付システムを体験してみてはいかがでしょうか。
建物が考え、オフィスが語りかけ、都市が自律する──
その第一歩は、あなたの会社に一つのセンサーを導入するところから始まります。
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